食事・水分ケア
シニアのうちの子が食べない時の栄養整理
昨日までは少し食べていたのに、今日は匂いを嗅ぐだけ。好きだったおやつにも顔をそむける。シニア犬やシニア猫と暮らしていると、「年だからかな」「でも何も食べないのは怖い」と迷う場面があります。 食べない理由は、味の好みだけとは限りません。吐き気、口の痛み、腎臓病や心臓病、がん、関節の痛み、呼吸の苦しさ、薬の影響、食器や環境の変化などが、食欲不振として表れることがあります。
この記事でわかること
- RERを使って「今日は必要量の何割を食べたか」を見る方法
- 乾物基準、カロリー密度、療法食、総合栄養食の見方
- まず相談したい危険サイン
- 受診前に整理しておくと役立つ記録
まず「食べない理由」と危険サインを分けます
老犬・老猫が食べないとき、最初に見るのは「食べたいけれど食べられない状態ではないか」です。
口内炎や歯周病があると、食べ物を口に入れた瞬間に痛みが出ます。腎臓病、肝臓病、膵炎、がん、感染症などでは、吐き気やだるさで食べる気力が落ちます。関節の痛みで食器まで歩くのがつらい、首を下げる姿勢が苦しい、呼吸が苦しくて食べられないこともあります。
次のサインがある場合は、家庭で食べさせ方を工夫するより先に、かかりつけや救急相談へ連絡してください。
- 呼吸が苦しそう、横になって眠れない
- ぐったりして立てない、反応が弱い
- 繰り返し吐く、吐こうとしても出ない
- 黄疸が疑われる黄色い目・皮膚・歯ぐきがある
- 尿が出ない、トイレに何度も行く
- 猫が丸1日ほとんど食べない
- 持病があり、食べないことで薬や療法食が続けられない
ポイント
「少しなめたから大丈夫」とは限りません。数口食べていても、体を支えるエネルギーや水分に届いていないことがあります。食べた量は、感覚ではなく記録に残すと相談しやすくなります。
栄養評価は第5のバイタルとして記録します
WSAVAの栄養評価ガイドラインでは、体温・脈拍・呼吸・痛みと並んで、栄養評価を日常診療の重要な評価項目として扱っています。家庭で全部を診断する必要はありませんが、次の情報は受診時の判断材料になります。
| 見る項目 | 家庭で残す情報 | 相談時に役立つ理由 |
|---|---|---|
| 体重 | できれば同じ条件で測る | 体重減少は栄養不足や脱水の手がかりになります |
| BCS | 肋骨、腰、腹まわりの変化 | 脂肪の過不足を見ます |
| MCS | こめかみ、肩、背骨、腰骨まわり | シニア期や病気では筋肉が先に落ちることがあります |
| 食べた量 | いつもの何割か、g・ml・缶何分のいくつか | 必要量に届いているかを計算しやすくなります |
| 食べ方 | こぼす、片側で噛む、口を痛がる | 口腔痛や食べにくさを疑う材料になります |
| 消化器症状 | 吐く、下痢、便秘、よだれ、吐き気 | 食欲不振の原因の切り分けに役立ちます |
| 環境 | 食器、床、場所、多頭飼育、薬の匂い | 食べにくさを作る要因を整理できます |
BCSは体脂肪、MCSは筋肉量を見る指標です。太って見える子でも筋肉が落ちていることがあるため、体重だけで「まだ余裕がある」と判断しないことが大切です。
RERは、食べた量を見える化するための物差しです
RER(Resting Energy Requirement、安静時エネルギー要求量)は、安静時に必要なエネルギーの目安です。病気の種類、体格、肥満度、年齢、活動量、治療方針で必要量は変わるため、家庭で「この数字まで必ず食べさせる」と決めるものではありません。
ただし、食欲不振の相談では「今日はRERの何割くらい食べたか」を伝えられると、状況がかなり具体的になります。
RERの基本式
| 体重 | よく使われる計算式 |
|---|---|
| 2〜30kg | RER = 30 × 体重kg + 70 |
| 2kg未満または30kg超 | RER = 70 × 体重kg^0.75 |
例として、4kgの猫なら 30 × 4 + 70 = 190 kcal/日 が目安です。10kgの犬なら 30 × 10 + 70 = 370 kcal/日 です。
「何g食べたか」まで落とし込みます
RERを出したら、次はフードのカロリー密度を見ます。パッケージやメーカー情報にある「100gあたり」「1缶あたり」「1mlあたり」のkcalを使います。
| 計算したいこと | 式 |
|---|---|
| 今日の目標kcal | RER × 指示された割合 |
| 1日の必要量 | 今日の目標kcal ÷ フードのkcal/gまたはkcal/ml |
| 1回量 | 1日の必要量 ÷ 食事回数 |
たとえば、4kgの猫でRERを約190 kcal/日、今日の目標を50%とするなら、約95 kcal/日です。1gあたり1.1 kcalのウェットフードなら、約86g/日。6回に分けるなら1回約14gです。
注意
病中や長く食べていない状態では、いきなり100%を目指さないことがあります。何%から始めるか、何日で増やすか、吐き気止めや点滴が必要かは、獣医師の判断が必要です。
栄養素は「何を足すか」より「何を崩さないか」を見ます
食べないときほど、「とにかく高栄養ならよい」「タンパク質を足せばよい」と考えたくなります。けれど、持病があるシニア犬猫では、栄養素の足し引きが病状に影響することがあります。
まず確認したいのは、次の4つです。
| 確認項目 | 見る理由 |
|---|---|
| 総合栄養食・療法食か | 主食として必要栄養を満たす設計かを確認します |
| カロリー密度 | 少量でどれくらいkcalを取れるかが分かります |
| 水分量 | ウェットとドライでは、同じgでも栄養濃度が違います |
| 乾物基準 | 水分を除いてタンパク質や脂肪を比較します |
FDAは、ペットフードの「complete and balanced」はAAFCOの栄養プロファイルを満たすか、AAFCO手順の給与試験を通過する必要があると説明しています。また、ウェットとドライの栄養素を比べるときは、水分を除いた乾物基準で見る必要があります。
持病があるときに自己判断で動かしにくい栄養素
- 腎臓病:リン、タンパク質、ナトリウム、水分量
- 心臓病:ナトリウム、カロリー、体重変化
- 膵炎・脂質代謝の問題:脂肪量、食事量の増やし方
- 尿石症:ミネラル、尿pHに関わる設計、水分摂取
- がん・慢性炎症・寝たきり:エネルギー、タンパク質、筋肉量の維持
療法食を食べない場合は、「療法食をやめるか」ではなく、「同じ治療目的を崩しにくい代替候補は何か」を相談します。食べない期間が続くほうが危険な場合もあるため、候補を複数持っておくと安心です。
おうちでできること・避けたいこと
家庭での対応は、「食べない原因を見つけるための記録」と「食べやすい条件づくり」が中心です。無理に食べさせることより、相談につながる情報を集めることが役に立ちます。
| OK | NG |
|---|---|
| 食べた量をg・ml・kcalで記録する | 食べない状態を何日もそのままにする |
| フードのkcal/g、kcal/mlを確認する | 「数口食べた」だけで足りていると判断する |
| 食器、温度、姿勢、場所を変えてみる | 嫌がる子を押さえつけて口へ入れる |
| 療法食を食べないときは代替候補を相談する | 持病があるのに自己判断で食事を大きく変える |
| 水分、尿量、便、体重、筋肉量も一緒に見る | 人間用の薬や栄養剤を使う |
| 通院が負担なら往診や支援先を調べる | サプリや民間療法だけで様子を見る |
相談前にメモしておきたいこと
受診や電話相談の前に、次の情報をまとめておくと話が早くなります。すべて完璧でなくても構いません。分かる範囲で十分です。
- いつから食べる量が減ったか
- いつもの食事量に対して、今は何割くらいか
- 食べた量をg・ml・kcalで書ける範囲
- 使っているフード名、療法食名、1gまたは1mlあたりのkcal
- 水を飲む量、尿量、便の回数や状態
- 嘔吐、下痢、よだれ、口の痛みの有無
- 体重の変化、筋肉が落ちた感じ
- 飲んでいる薬、サプリ、療法食
- 持病と直近の検査結果
- 家で試した工夫と、その反応
- 食べ方や歩き方、呼吸の動画
写真や動画は、診察室で再現しにくい変化を伝える助けになります。食器の前で迷う、口からこぼす、食後に吐くなどの様子は、可能なら短く残しましょう。
支援先の選び方:一人で抱え込まない
食べない日が続くと、飼い主さんは「自分がもっと頑張らないと」と感じやすくなります。けれど、食欲不振のケアは、飼い主さんの努力だけで解決するものではありません。
通院が負担になってきたら、往診動物病院という選択肢があります。食事介助や介護環境に迷うときは、動物看護師、ペットシッター、介護用品の相談先が助けになることもあります。
地域の支援先を探したいときは、「犬と猫のケアマネ」のサービス検索も活用できます。病院の代わりではなく、家での暮らしを支える選択肢として考えてください。
よくある質問
RERまで食べさせれば大丈夫ですか?
いいえ。RERは評価の物差しであり、治療中の目標量そのものではありません。長く食べていない子、嘔吐がある子、持病がある子では、何%から始めるかを獣医師が判断します。
食べるものなら、何でも食べさせてよいですか?
何でもよいわけではありません。玉ねぎ類、味の濃い食品、人間用の薬や栄養剤は避けます。療法食が必要な持病がある場合は、代替候補をかかりつけに確認しましょう。
どのくらい食べないと相談したほうがよいですか?
日数だけで一律には決められませんが、猫が丸1日ほとんど食べない、犬猫ともにぐったりする、繰り返し吐く、持病の薬や療法食が続けられない場合は早めに相談してください。迷ったら、食べた量を記録したうえで電話相談すると判断しやすくなります。
まとめ:今日からできる3つのこと
- 食べた量をg・ml・kcalで記録し、RERの何割かを見える化する
- 栄養素を自己判断で足し引きせず、療法食や代替候補を整理する
- ぐったりする、吐く、猫が丸1日食べない、持病で薬が飲めない場合は早めに相談する
老犬・老猫が食べないと、飼い主さんの心も休まりません。けれど、食べない理由を一人で決める必要はありません。記録を持って相談すれば、原因や食べやすい方法を一緒に考えやすくなります。
犬猫の介護に、正解はひとつではありません。だからこそ、飼い主さんだけで抱え込まず、動物病院や地域の専門家と一緒に考えていきましょう。「犬と猫のケアマネ」は、その最初の入口になることを目指しています。
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