食事・水分ケア

シニアのうちの子が食べない時の栄養整理

昨日までは少し食べていたのに、今日は匂いを嗅ぐだけ。好きだったおやつにも顔をそむける。シニア犬やシニア猫と暮らしていると、「年だからかな」「でも何も食べないのは怖い」と迷う場面があります。 食べない理由は、味の好みだけとは限りません。吐き気、口の痛み、腎臓病や心臓病、がん、関節の痛み、呼吸の苦しさ、薬の影響、食器や環境の変化などが、食欲不振として表れることがあります。

食べない老犬・老猫の栄養整理として、体重、RER、kcal、記録の4つを見渡せる図表

この記事でわかること

  • RERを使って「今日は必要量の何割を食べたか」を見る方法
  • 乾物基準、カロリー密度、療法食、総合栄養食の見方
  • まず相談したい危険サイン
  • 受診前に整理しておくと役立つ記録

まず「食べない理由」と危険サインを分けます

老犬・老猫が食べないとき、最初に見るのは「食べたいけれど食べられない状態ではないか」です。

口内炎や歯周病があると、食べ物を口に入れた瞬間に痛みが出ます。腎臓病、肝臓病、膵炎、がん、感染症などでは、吐き気やだるさで食べる気力が落ちます。関節の痛みで食器まで歩くのがつらい、首を下げる姿勢が苦しい、呼吸が苦しくて食べられないこともあります。

次のサインがある場合は、家庭で食べさせ方を工夫するより先に、かかりつけや救急相談へ連絡してください。

  • 呼吸が苦しそう、横になって眠れない
  • ぐったりして立てない、反応が弱い
  • 繰り返し吐く、吐こうとしても出ない
  • 黄疸が疑われる黄色い目・皮膚・歯ぐきがある
  • 尿が出ない、トイレに何度も行く
  • 猫が丸1日ほとんど食べない
  • 持病があり、食べないことで薬や療法食が続けられない

ポイント
「少しなめたから大丈夫」とは限りません。数口食べていても、体を支えるエネルギーや水分に届いていないことがあります。食べた量は、感覚ではなく記録に残すと相談しやすくなります。

食べない理由と危険サインを、まず確認することと先に相談したいことに分けて整理した図表

栄養評価は第5のバイタルとして記録します

WSAVAの栄養評価ガイドラインでは、体温・脈拍・呼吸・痛みと並んで、栄養評価を日常診療の重要な評価項目として扱っています。家庭で全部を診断する必要はありませんが、次の情報は受診時の判断材料になります。

体重、BCS、MCS、食べた量、吐き気、排泄など、栄養評価で残したい項目を整理した図表
見る項目 家庭で残す情報 相談時に役立つ理由
体重 できれば同じ条件で測る 体重減少は栄養不足や脱水の手がかりになります
BCS 肋骨、腰、腹まわりの変化 脂肪の過不足を見ます
MCS こめかみ、肩、背骨、腰骨まわり シニア期や病気では筋肉が先に落ちることがあります
食べた量 いつもの何割か、g・ml・缶何分のいくつか 必要量に届いているかを計算しやすくなります
食べ方 こぼす、片側で噛む、口を痛がる 口腔痛や食べにくさを疑う材料になります
消化器症状 吐く、下痢、便秘、よだれ、吐き気 食欲不振の原因の切り分けに役立ちます
環境 食器、床、場所、多頭飼育、薬の匂い 食べにくさを作る要因を整理できます

BCSは体脂肪、MCSは筋肉量を見る指標です。太って見える子でも筋肉が落ちていることがあるため、体重だけで「まだ余裕がある」と判断しないことが大切です。

RERは、食べた量を見える化するための物差しです

RER(Resting Energy Requirement、安静時エネルギー要求量)は、安静時に必要なエネルギーの目安です。病気の種類、体格、肥満度、年齢、活動量、治療方針で必要量は変わるため、家庭で「この数字まで必ず食べさせる」と決めるものではありません。

ただし、食欲不振の相談では「今日はRERの何割くらい食べたか」を伝えられると、状況がかなり具体的になります。

体重からRERを見て、目標割合を決め、gやmlへ落とし込む流れを示した図表

RERの基本式

体重 よく使われる計算式
2〜30kg RER = 30 × 体重kg + 70
2kg未満または30kg超 RER = 70 × 体重kg^0.75

例として、4kgの猫なら 30 × 4 + 70 = 190 kcal/日 が目安です。10kgの犬なら 30 × 10 + 70 = 370 kcal/日 です。

「何g食べたか」まで落とし込みます

RERを出したら、次はフードのカロリー密度を見ます。パッケージやメーカー情報にある「100gあたり」「1缶あたり」「1mlあたり」のkcalを使います。

計算したいこと
今日の目標kcal RER × 指示された割合
1日の必要量 今日の目標kcal ÷ フードのkcal/gまたはkcal/ml
1回量 1日の必要量 ÷ 食事回数

たとえば、4kgの猫でRERを約190 kcal/日、今日の目標を50%とするなら、約95 kcal/日です。1gあたり1.1 kcalのウェットフードなら、約86g/日。6回に分けるなら1回約14gです。

注意
病中や長く食べていない状態では、いきなり100%を目指さないことがあります。何%から始めるか、何日で増やすか、吐き気止めや点滴が必要かは、獣医師の判断が必要です。

栄養素は「何を足すか」より「何を崩さないか」を見ます

食べないときほど、「とにかく高栄養ならよい」「タンパク質を足せばよい」と考えたくなります。けれど、持病があるシニア犬猫では、栄養素の足し引きが病状に影響することがあります。

まず確認したいのは、次の4つです。

総合栄養食、療法食、kcal/g、水分、乾物基準というフード表示の見方を整理した図表
確認項目 見る理由
総合栄養食・療法食か 主食として必要栄養を満たす設計かを確認します
カロリー密度 少量でどれくらいkcalを取れるかが分かります
水分量 ウェットとドライでは、同じgでも栄養濃度が違います
乾物基準 水分を除いてタンパク質や脂肪を比較します

FDAは、ペットフードの「complete and balanced」はAAFCOの栄養プロファイルを満たすか、AAFCO手順の給与試験を通過する必要があると説明しています。また、ウェットとドライの栄養素を比べるときは、水分を除いた乾物基準で見る必要があります。

持病があるときに自己判断で動かしにくい栄養素

  • 腎臓病:リン、タンパク質、ナトリウム、水分量
  • 心臓病:ナトリウム、カロリー、体重変化
  • 膵炎・脂質代謝の問題:脂肪量、食事量の増やし方
  • 尿石症:ミネラル、尿pHに関わる設計、水分摂取
  • がん・慢性炎症・寝たきり:エネルギー、タンパク質、筋肉量の維持

療法食を食べない場合は、「療法食をやめるか」ではなく、「同じ治療目的を崩しにくい代替候補は何か」を相談します。食べない期間が続くほうが危険な場合もあるため、候補を複数持っておくと安心です。

おうちでできること・避けたいこと

家庭での対応は、「食べない原因を見つけるための記録」と「食べやすい条件づくり」が中心です。無理に食べさせることより、相談につながる情報を集めることが役に立ちます。

OK NG
食べた量をg・ml・kcalで記録する 食べない状態を何日もそのままにする
フードのkcal/g、kcal/mlを確認する 「数口食べた」だけで足りていると判断する
食器、温度、姿勢、場所を変えてみる 嫌がる子を押さえつけて口へ入れる
療法食を食べないときは代替候補を相談する 持病があるのに自己判断で食事を大きく変える
水分、尿量、便、体重、筋肉量も一緒に見る 人間用の薬や栄養剤を使う
通院が負担なら往診や支援先を調べる サプリや民間療法だけで様子を見る

相談前にメモしておきたいこと

受診や電話相談の前に、次の情報をまとめておくと話が早くなります。すべて完璧でなくても構いません。分かる範囲で十分です。

  • いつから食べる量が減ったか
  • いつもの食事量に対して、今は何割くらいか
  • 食べた量をg・ml・kcalで書ける範囲
  • 使っているフード名、療法食名、1gまたは1mlあたりのkcal
  • 水を飲む量、尿量、便の回数や状態
  • 嘔吐、下痢、よだれ、口の痛みの有無
  • 体重の変化、筋肉が落ちた感じ
  • 飲んでいる薬、サプリ、療法食
  • 持病と直近の検査結果
  • 家で試した工夫と、その反応
  • 食べ方や歩き方、呼吸の動画

写真や動画は、診察室で再現しにくい変化を伝える助けになります。食器の前で迷う、口からこぼす、食後に吐くなどの様子は、可能なら短く残しましょう。

支援先の選び方:一人で抱え込まない

食べない日が続くと、飼い主さんは「自分がもっと頑張らないと」と感じやすくなります。けれど、食欲不振のケアは、飼い主さんの努力だけで解決するものではありません。

通院が負担になってきたら、往診動物病院という選択肢があります。食事介助や介護環境に迷うときは、動物看護師、ペットシッター、介護用品の相談先が助けになることもあります。

地域の支援先を探したいときは、「犬と猫のケアマネ」のサービス検索も活用できます。病院の代わりではなく、家での暮らしを支える選択肢として考えてください。

よくある質問

RERまで食べさせれば大丈夫ですか?

いいえ。RERは評価の物差しであり、治療中の目標量そのものではありません。長く食べていない子、嘔吐がある子、持病がある子では、何%から始めるかを獣医師が判断します。

食べるものなら、何でも食べさせてよいですか?

何でもよいわけではありません。玉ねぎ類、味の濃い食品、人間用の薬や栄養剤は避けます。療法食が必要な持病がある場合は、代替候補をかかりつけに確認しましょう。

どのくらい食べないと相談したほうがよいですか?

日数だけで一律には決められませんが、猫が丸1日ほとんど食べない、犬猫ともにぐったりする、繰り返し吐く、持病の薬や療法食が続けられない場合は早めに相談してください。迷ったら、食べた量を記録したうえで電話相談すると判断しやすくなります。

まとめ:今日からできる3つのこと

  1. 食べた量をg・ml・kcalで記録し、RERの何割かを見える化する
  2. 栄養素を自己判断で足し引きせず、療法食や代替候補を整理する
  3. ぐったりする、吐く、猫が丸1日食べない、持病で薬が飲めない場合は早めに相談する

老犬・老猫が食べないと、飼い主さんの心も休まりません。けれど、食べない理由を一人で決める必要はありません。記録を持って相談すれば、原因や食べやすい方法を一緒に考えやすくなります。

犬猫の介護に、正解はひとつではありません。だからこそ、飼い主さんだけで抱え込まず、動物病院や地域の専門家と一緒に考えていきましょう。「犬と猫のケアマネ」は、その最初の入口になることを目指しています。

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参考資料